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名古屋高等裁判所 昭和53年(ラ)208号 決定

抗告人

桐山すゞ

外二名

右代表者

桐山幸一

右三名代理人

飯田泰啓

相手方

株式会社共和ベニヤ商会

右代表者

渡辺義三

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙抗告状写及び同抗告理由補充申立書写記載のとおりである。

よつて、審案するに、更正決定は、裁判の実質的内容を変更することなく、単にその違算書損その他これに類する明白な誤記などを訂正する決定であるから、たとえ更正決定の形式を履践していても、その更正が裁判の実質的内容に変更を加えるものであれば、確定してもその更正の内容に即した効力を生じないものといわなければならない。また、不動産引渡命令は、競落人が代金全額を支払つた後直接自己に競落不動産の引渡を求めた場合に、執行裁判所が執行官に対し競落許可の目的不動産について債務者等の占有を解いて申立人に引渡すことを命ずる旨の決定であるから、不動産引渡命令の目的不動産についての更正決定はそれ自体に明白な誤謬あるとき或いはその目的不動産の記載と競落許可決定の目的不動産とを対比し、前者に前記のような明白な誤謬等のある場合にはこれを許し、そのような誤謬等のない場合にはこれを許すべきでないといわなければならない。

記録によれば、原裁判所が昭和五三年六月一五日名古屋地方裁判所昭和五一年(ケ)第一九四号不動産競売事件について、別紙第一及び第二物件目録記載の不動産に対し、相手方が最高価の入札をしたので競落を許可する旨の決定をなし、その後昭和五三年七月一〇日に右競落許可決定に明白な誤謬があるとして、その目的不動産から右第二物件目録記載の不動産を削除する旨の更正決定をなしたこと、同年八月八日名古屋地方裁判所執行官に別紙第一物件目録記載の不動産に対する抗告人らの占有を解いて相手方に引渡すことを命ずる旨の不動産引渡命令をなし、続いて同年一〇月一六日今度は右引渡命令中の第一物件目録記載の不動産に別紙第二物件目録記載の不動産を加える旨の更正決定をなしたことが明らかである。そして、また本件競売事件の競売開始決定は、別紙第一物件目録記載の不動産についてのみなされたが、その後鑑定人の鑑定において、現況として別紙第一物件目録記載(五)の不動産には別紙第二物件目録に記載のような付属建物が存し、別紙第二物件目録に記載のような付属建物が存し、別紙第一物件目録記載(六)の不動産についても別紙第二物件目録記載の不動産が属している(もつとも付属建物である旨の説明はなされていない)旨の説明がなされたうえ鑑定評価額が現況に沿つて出され、入札および競落期日公告にも「現況右(五)の建物と一体利用されている一、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建倉庫床面積109.72平方メートル右(六)の建物と一体利用されている一、軽量鉄骨造波型スレート葺平家建倉庫及び通路床面積141.76平方メートル一、軽量鉄骨及び木造波型スレート葺弐階建居宅床面積壱階30.65平方メートル弐階26.11平方メートルがそれぞれ存在している。」との記載がなされ、最低入札価額も別紙第二物件目録記載の不動産をも加えて評価された前記鑑定評価額によつて決められたうえ、公告がなされていること、しかしながら他方不動産入札払調書については別紙第一物件目録記載の不動産のみが表示され、名古屋地方裁判所執行官作成の賃貸借等取調報告書中には「居宅と倉庫及び通路及び倉庫増築部分の対象外物件が存在する」旨の記載がなされていることがそれぞれ認められる。

右によれば、記録上別紙第二物件目録記載の不動産が同第一物件目録記載の不動産の付属建物であるか否かが一見して疑義を挾まない程に明瞭ではなく、従つて別紙第一及び第二物件目録記載の不動産を目的不動産とした競落許可決定の表示に、更正決定されたように別紙第一物件目録記載の不動産のみが目的不動産である旨の表現上の明白な誤謬があつたものとしかく簡単に解することはできず、競落許可決定の更正決定は、別紙第二物件目録記載の不動産を削除した点において、競落許可決定の目的不動産についてその実質的内容を変更したものと解せざるを得ない。

そうすると、前記競落許可決定の更正決定は、その内容に即した効力を生じないものといわなければならないから、本件競売手続上は競落許可決定の目的不動産は、いまなお別紙第一物件目録記載の不動産に別紙第二物件目録記載の不動産を加えたものであるといわなければならず、これによれば、別紙第一物件目録記載の不動産のみを目的不動産と記載した更正決定前の引渡命令には、別紙第二物件目録記載の不動産の記載を遺脱した点において、明らかな誤謬が見られるから、別紙第二物件目録記載の不動産をも目的不動産に加えた本件引渡命令の更正決定は、結局正当であるといわなければならない。〈以下、省略〉

(村上悦雄 上野精 小島裕史)

抗告状写及び同抗告理由補充申立書写〈省略〉

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